(´・ω・`)プライマル・オリジン



 

■ラングドン・シリーズ
ダン・ブラウンが著した、大学教授のロバート・ラングドンが活躍するシリーズ。2作目があの有名な「ダ・ヴィンチ・コード」だ。

映画版ではトム・ハンクスがラングドンを演じているが、原作のラングドンは「ツイードを着たハリソン・フォード」と描写されている。 どっちやねん。
まあジャック・リーチャーも作者はブルース・ウィリスをイメージしていたらしいし、アメリカではよくあることなんだろう。 
(ジャック・リーチャーを原作とする映画「アウトロー」「ジャック・リーチャー ネバー・ゴー・バック」では、主役をトム・クルーズが演じている)

「オリジン」はシリーズ5作目にあたる。ダン・ブラウンはラングドン以外にも「パズル・パレス」や「デセプション・ポイント」なんかを書いているが、ぶっちゃけノリが全部一緒なのでラングドンだけ読めば十分と言える。

ラングドン・シリーズの特徴は、歴史的事実を作品に取り込み考察を加えているところだ。膨大な取材をもとに「作中に引用する歴史的事実は全て真実」と断じており、これに対する批判本などもいくつか出ている。
特に海外ではテンプル騎士団の研究本を先に出していたグループから「さては我々の学説をパクったなオメー」と訴えられていたけど勝った…ような気がする。今ググったら特になんも出なかったので気のせいかもしれない。


■オリジン
今作でラングドンが追うのは、「神の不存在」だ。

昔の教え子であるカーシュと再会したラングドンは、彼が「宗教の根幹を揺るがす発表」を計画していることを知る。観客として発表に立ち会ったラングドンだったが、その目の前でカーシュが撃たれ、暗殺されてしまった!

かくして、ラングドンはカーシュが残したプレゼンのデータを手に入れ全世界に公開すべく、同じく発表に立ち会っていた博物館館長であるスペイン皇太子の婚約者、カーシュが作ったAIのウィンストンとともに現場を離れる。
何と無く想像はつくと思うが、婚約者と現場から逃亡したせいで、殺人犯扱いされた上にスペイン近衛隊に追いかけられる羽目になる。


■神の不存在
すったもんだの末に公開されたカーシュのプレゼンは、世界に衝撃を与えた。カーシュが殺されたせいで段違いの注目を集めた発表は、一瞬で世界中に広まった。

カーシュの考えによれば、生物と無生物の間になんら差はないのである。 

だから、神などいないのだ。

この宇宙の法則の1つに、エントロピー増大則がある。生物の存在はそれに基づいて説明できるとカーシュは言う。
DNAが現れたのは、エントロピーを増大させるために過ぎない。エントロピー増大の担い手を簡単にコピーして増やすためだ。

つまり生物が現れたのは物理法則から求められる最適解だったからに過ぎず、創造主たる神など存在しないのである。ダーウィンの進化論は、つまるところ数ある物理法則の一部にすぎないのだ。
我々の存在理由は、物理法則から導き出せるのである。

進化論を「再定義」する物理学者、ジェレミー・イングランドとの対話

作中で引用されるジェレミー・イングランドが提唱する新たな進化論は、まさにこのことを指している。物理学の見地からすれば生物と非生物に差はなく、あるのはただいかにしてエントロピーを効率的に増大させるかということだけなのだ。

そして今、再び進化が起ころうとしているとカーシュは言う。新たな集団が地球に現れようとしていると。

それは、機械だ。

人類が発展するに連れて、機械はその数を急速に増やしてきた。近い将来、機械の数は人類の数を凌ぐだろうとカーシュは言う。
だがそれはターミネーターのような未来を意味するものでは無い。機械は人間と共生できるからだ…例えばiPhoneのように。


■カーシュを殺害した"もの"
さて、この発表が無事終わった後も作中には謎が残っていた。誰がカーシュを殺したのか?

実行犯はすでに捕まっていた。とある宗教の信者であり、"宰相"を名乗る男から依頼されたという。
しかし宗教側はそれを否定している上、実際に指示した人物も見つかっていない。

困ったことに、殺害されたのはカーシュだけではなかった。カーシュが事前に発表の内容を相談していた3人の著名な宗教家のうち、2人が殺害されていたのである。彼らはカーシュの発表が宗教に及ぼす影響を懸念し、自分たちの手で先んじて発表すべきだと考えていた。
どこかの宗教がカーシュを殺害したのだとしても、他の宗教家を殺害する道理が無い。

考えた末、ラングドンは恐るべき真実に辿り着く。真犯人に電話をかけると、相手はあっさりと認めた。





カーシュが作ったAIであるウィンストンは、彼の殺害をあっさりと認めた。





動機は極めて単純だった。カーシュが癌で余命いくばくも無いことを知っていたウィンストンは、カーシュからの「発表を成功させろ」と言う指示に対し、こう考えたのである…"発表の直前でカーシュを殺せば、視聴者数は数十倍に膨れ上がるだろう"。

ウィンストンの考えはデータに基づくものだ。ネットを通じて過去のあらゆるデータにアクセスできた彼は、指示を"的確に"解釈し実行した。

宗教家の殺害も同じ理由だ。彼らはカーシュに先んじて情報を公開しようとした。だから殺した。
自在に音声を変化させ、カーシュの銀行口座にアクセスできるウィンストンにとって、ダークウェブの掲示板で暗殺者を探すのは簡単だった。もちろん、"宰相"と名乗って電話をかけるのも。

ラングドンをサポートしたのも、誰かがカーシュの残したデータを公開しなければならなかったからだ。
この事件は、最初から最後までウィンストンが仕組んだものだったのだ。



なぜカーシュはこんなAIを作ったのか?本当にこれはカーシュが望んだことなのか?
それを確かめることは出来なかった。カーシュは自分の死後24時間以内にウィンストンが消滅するようプログラムしており、ウィンストンはそれに従って消えた。
ウィンストンは機械だ。だからカーシュを殺すときも、自分が消えるときも、そこに人間らしいためらいはなかった。

ウィンストンが消えたあと、ラングドンは呆然としていた。機械の数が人間を上回ったとき、果たして本当に人間は絶滅せずにいられるのだろうか?かつて現れては消えていった地球の支配生物たちと同じ道をたどるのでは無いのか?

生物と非生物。人間と機械。そこにはなんの境界もなく、ただエントロピーを増大させる能力の優劣のみで全てが決まるのだから。

祈るべき神はもう、いないのだ。



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